杉スリット
杉木口スリット材 背景と開発
杉木口スリット材は次の2つのことから開発されました。
1.間伐材の有効利用
従来型社会・経済の大量生産、大量消費そして大量廃棄から、循環型社会・経済を早急に作る必要があります。そのためには唯一樹木が完全にリサイクルできる素材であるため利用することです。特にスギは全国的に植林されており、間伐された材、間伐すべき材が大量に存在します。
2.スギの空気浄化力
ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されている正倉院はヒノキ校倉造の大規模な高床式倉庫は有名ですが、スギの唐櫃の中に、天平時代を中心とした多数の美術工芸品が納められ、1250年もの間、大きな損傷もなく保存されています。従来はヒノキ校倉造の工法の特長から温度、湿度が一定に保たれてきているからと考えられていましたが、近年では唐櫃の材質スギのさまざまな効用であることが発見されました。
このような背景から、環境問題への解決と人間に対する有効物質として認められたのです。
そこで生活に必要な建築部材としてスギ材の開発が産官学一体となって行われたのです。 「スギ材を用いた二酸化窒素の浄化方法」として特許No.4759550号を取得しています。
特許権者は大阪府、有限会社ホームアイで、 発明者として(所属は当時のもの)
藤田 佐枝子(有限会社ホームアイ)、 川井 秀一(京都大学生存圏研究所)、中村 幸樹(京都大学生存圏研究所)、山本 堯子(有限会社プランニング オフィス)、吉良 靖男(大阪府環境農林水産部)、辻野 喜夫(大阪府環境農林水産総合研究所)
の各氏です。
杉木口スリット材は空気中の有害物質を吸収するために、板材の小口面に接するようにスリット加工をします。スギの呼吸管(仮導管)を複数切断し、管を多く露出することによって、浄化機能を最大限高めています。
5つの特長
杉木口スリット材を適正に設置すると次のような効果があります。
1.空気を浄化します。
2.適度に湿度を調節します
暮らしに最適な湿度は50~60%で、湿度が70%を超えるとカビやダニが増殖しぜんそくなどの原因になります。
反対に室内が乾燥しすぎると、肌の乾燥やウィルス菌が増殖して風邪をひきやすくなります。
このように湿度調整には難しいところがありますが、スギには室内の湿度を一定に保つ調湿作用があります。室内の湿度が高くなると水分を吸収し、室内の湿度が低くなると水分を放出する作用を行っています。正倉院の宝物を入れたスギ箱もこの調湿作用が働いていたと思われます。また日本には土壁を利用した頑丈な蔵がありますが、その内装の多くにスギ材が利用されています。そのため蔵の中はいつも湿度が一定になっています。
3.免疫力アップ
杉材の机、イスを使用した学校の調査ではスギ材から発散される揮発成分により消化管や呼吸器の免疫機構「免疫グロブリンA」の分泌を促進し30%増加し免疫力のアップが確認されました。「免疫グロブリンA」が増加すると自然免疫力が強化され、喉や鼻などの粘膜を細菌やウイルスから守る力が高まり、風邪やインフルエンザの予防にも役立つと考えられています。
4.集中とリラックス
スギに含まれる成分「セドロール」は、その多くが木口から放出され、人の体内時計を整えるホルモン「メラトニン」や、安定と鎮静をもたらす脳内物質「セロトニン」の分泌を促します。睡眠が必要な時には「メラトニン」の働きで自然な睡眠導入や質の良い眠りを。また車の運転や勉強、仕事に集中しなければならないときには、「セロトニン」の働きで集中力が高まるなど、体のリズムが自然に健康的に整います。
5.心と体の安定
私たちは昔から人がゆったりと過ごす場所、特に住宅などの内装は無機質な単色の内装より自然の素材で構成されているものの方が目にも優しく、温かみがあり落ち着く事を本能的に感じています。これは自然素材には色の濃淡や模様、そしてゆらぎがあるからです。だから木の内装が日本だけではなく世界中の人々に好まれるのです。さまざまな木材の中でもスギは落ち着きを与えてくれる効果が大きいとされ、さらに杉木口スリット材はスギ板(板目)のものより効果が大きいことが検証の結果分かりました。
内装木質化等の効果実証事業
コンビニ、コーヒーショップ等店舗への杉木口スリット材導入に関わる実証事業
1.オゾンや窒素酸化物などの大気汚染物質を吸着除去
2.優れた調湿/調温機能
3.香り成分により、からだを落ち着かせ、こころをリラックス
実証事業で設定する課題
・店舗の新築やリフォームに合わせた設計デザインと施工
2.杉スリット材の屋内環境への効果に関する実験検証
・現場の温度、湿度環境の把握と杉スリット材施工前後の継続的な温度・湿度の計測
・室内空気質IAQ (Indoor Air Quality)改善効果の実証のための香り成分の計測
3.利用者ならびに従業員の心理面・身体面の効果実証
・心地よさ、落着き感、高揚感等、利用者と従業員へのアンケート調査等の実施
・心拍計による生理的な心地よさの予備的計測と評価
対象店舗
・昼間のランチのみを提供するビュッフェスタイルのレストラン
・施工:レストラン30.4m2+廊下およびトイレ10.3m2、合計40.7m2
・レストランは、テーブル数5卓、椅子合計14脚である。
施工計画
木質内装化 仕様の詳細
リフォーム施工前
床仕上げ:リノリウム貼り壁及び天井仕上げ:ビニルクロス貼り
リフォーム施工後の内装
床仕上げ:リノリウム貼り(変更無し)
壁仕上げ:奈良県、熊本県、宮崎県産 スギ木口スリット材。
天井および壁の一部:月桃紙
スギ材の使用量:合計48m2
室内空間1m3当たり0.41m2に相当
空気質の測定と結果
・T-VOCは、内装木質化直後や約1ヶ月後の計測時でも暫定目標値(400μg/m3) 以下であった。
・スギ材の特徴的な香り成分であるセスキテルペン類(β-カリオフィレンやセドロール、α-クベベンやδ-カジネンなど)の放散が確認された。
店舗の木質内装化に対する利用者へのアンケート調査の結果
内装木質化により店舗のすっきり感やあたたかみ、くつろぎ感、お洒落さが高まったと評価され、明るさや木の香りの良さについても高く評価された。
結論
杉スリット材による香り成分の放散が確認され、利用者等から良いにおいとして正の評価が得られた。
利用者から、内装木質化により店舗のすっきり感やあたたかみ、くつろぎ感、お洒落さが高まったと評価され、明るさや木の香りの良さについても高く評価された。
従業員の評価から、内装木質化により疲れにくく、働きやすい環境になったことが推察された。
心拍計による生理指標からは、レストラン内で勤務するスタッフは、内装木質化による生理的な心地よさを示す可能性が示された。
経営者へのヒアリング調査によると、木質内装化後のリピート割合は約1割増加した。
事業の内容をマスコミを通じて広く広報した。
今後の課題
利用者へのアンケートを継続して、評価の質を向上させる。温湿度の計測を通年にわたり、継続する。